前回書いたとおり、映画では「アルタラの記録内」での人物の活躍が描かれています。
一方、現実での出来事については…
ナオミが2027年の記録世界に侵入するまでの様子が、駆け足で断片的に見せられるのみ。
ノベライズ本では、この部分が、もっと詳しく書かれています。
花火大会後からの10年間のナオミの行動についてや、その時々の感情なども。
ところが、ナオミが記録世界に入った後の現実については、語られていないのです。
映画のラストシーンで目を覚ますまでの経緯が全く!
小説でも確認したのですが、この点に言及はありませんでした。
今回は、この空白になっている現実世界のナオミと、彼の周囲への影響について、書いていきたいと思います。
はっきりと明言されていない内容なので、様々な考え方が可能ですが、
映画や小説の内容と、つじつまの合う解釈を、考えていきます。
(映画を観た後で読んでいただけるとうれしいです。)
ナオミが戻った世界
ナオミの意識が2027年の記録世界から戻った先は、「2037年の記録世界のみ」だったのだと思います。
(2037年の現実に戻り、そのコピーであるアルタラの記録内での話が、映画で語られたという訳ではなく。)
その記録世界では、自動修復システムが病室に押しかけ、彼を床に抑えつけて抵抗できなくし、その目の前で、一行瑠璃の意識を奪うはずです。
とうとう取り戻したかに思えた彼女を、あっという間に失ってしまうという絶望的な状況…
(2037年の時点では、「神の手」を使いこなす直美は現れないので。)
その後のナオミがどうなったのか。
現実世界に戻ろうと努力を続けるかもしれないし、心が折れてしまうかもしれません。
また、現実から逸脱し過ぎることで、「修復」の対象となってしまう危険性も高いのです。
(original image: Marek Piwnicki)
未来で、大人になった現実の瑠璃が、2代目のカラスを使い、「2027年の記録世界にいた直美を2037年の記録世界に導く」ことで、この状況のナオミを救うことになります。
現実のナオミとその周囲
(意識を失った時期は、この時のはずで、この点については改めて書きます。)
というのも、映画のエンドロール中の画像は、それを示唆する場面なのではないか、と思うんです。
18番目の画像の後、少し間があり、その後の19番目の画像から、現実のナオミに関する内容として見ることができます。
20番目が、研究室で、背中にひどいヤケドを負った直後のナオミ。
その次の21番目が、「千古さんへ」と書かれた、2つ折りの紙。
ノートを破って書いた手紙らしく、デスクの上に、小さいカラスの置物で重しがされています。
22番目は、この研究室のデスク前で立ち尽くす千古教授の後ろ姿。
この3枚は、ナオミが「記録世界に侵入する」という秘密の実験中に、命の危険さえも感じ、「もし自分になにかあった場合に備えて、手紙を残した」ということを意味しているのではないか、と思うのです。
(original image: Anna Nekrashevich)
お世話になった方々への、せめてもの償いとしての謝罪。
そして、実際に行っていた実験内容が分かるファイルの場所や、目的など…
自分の介入のせいでアルタラに影響を及ぼし、周囲の同僚たちが困ることは明らかでした。
その場合には、少しでも事情が分かっている方が対処しやすいという気遣いがあるはずです。
ナオミが意識を失った後の現実世界
そして、ナオミが戻って来られなくなって、実際にその手紙が職員の目に触れたのでしょう。
研究室の千古教授の様子は、「まさにその場所で、そのようなことが行われていたことに驚き、放心状態になった」ということを意味しているのかもしれません。
その後、「実験中のナオミの気持ちや状況に想いを馳せている」とも受け取れます。
この3枚に続く2枚の画像が、「ナオミがいなくなった後の研究所の様子」と解釈できます。
23番目は、新人職員3人に、ドローンをけしかける千古さん。
これは、以前から彼が行っていた「歓迎の儀式」のようなもので、気持ちを切り替えて仕事に戻っている様子が伝わってきます。
アルタラの研究を続けて、「いつかナオミ(の意識)を取り戻す」という決意を固めたのではないかな、と考えられます。
というのも、その次の24番目の画像が、研究所員の氏名を記した木の札(在籍板)で、「堅書直美」もあります。
今もナオミは職員で、「ずっと待っているよ」という、同僚たちの意思表示のように感じられるシーン…
この23番目と24番目の画像から、これが現実世界の様子で、映画で描かれた2037年の記録世界の続きではないと考えられるのです。
(記録世界でも、ナオミはいなくなってはいるけれど。)
ナオミが消えた後の記録世界
というのも、記録世界の方では、アルタラが消えているのです。
研究所の仕事は無くなったと考えられます。
もし、アルタラを再建したということならば、ある程度の年月の経過があるはずです。
(年齢不詳の教授はともかく、徐さんも研究所もそれまで通りなので、画像の場面は、ナオミがいなくなってから、それほど時間は経っていない様子。)
あのような、街全体を危険にさらすようなことが起こって、すぐに出資してもらえるはずもないですから。
新人を3人も迎える余裕があるかどうかも疑わしい状況なのです。
その記録世界では、自動制御システムの暴走を目にしているので、当然「自分たちも記録世界の住人だったのだ」と認識する彼らのはず。
天才的頭脳を持つ千古さんならば、アルタラの研究や監視は「現実世界の自分」に任せて、別の研究で世界の真理に近づこうとするのではないでしょうか。
ナオミのことは行方不明のままですが、ここは、「彼がずっと想ってきた瑠璃」も消えている世界。
ふたりとも、全く痕跡を残さずにいなくなっていることには、理由があると理解すると思われます。
(不思議な力を持つ15歳の少年と行動を共にしていたところは、たくさんの人たちに目撃されていますし。)
(original image: mafutto)
ナオミを探し出すことよりも、「現実世界の自分たち」の活躍に期待して、
「どこかの世界で、ふたりが幸せになってくれていたらいい」と願うのではないかな、と思います。
制作者の意図とは違うかもしれないけれど
実は、脚本家による映画後の書き下ろし小説『遥か先』では、「2037年の記録世界のその後」についての描写があります。
そして、アルタラの消えたすぐ後には、千古教授たちが研究所に通ってきているという内容も!
(↓ ネット上(note)に公開されていて、読むことができます。)
そうなると、エンドロールの上記の画像も…
実際は、『遥か先』の断片として描かれたのかもしれません。
でも、より自然な流れと考えられる、「現実世界の方の場面」として解釈してみました。
画像の構成も、「直美たちのその後を示す画像」とは違い、『遥か先』の内容と一致していませんし。
この『遥か先』では、ナオミが残した「手紙」についても触れられています。
それは、ナオミが病室で瑠璃と直美と別れてから、ふたりを車で助けに行くまでの間に書いたものかもしれないですし…
この時は時間が無いので、「記録世界に入る実験中に、机の上に出しておいていた手紙」を、そのまま使ったとも考えられるかな、と思います。
現実の瑠璃が目覚めた時
一方、2027年の落雷で意識を失った一行瑠璃。
ナオミが、2027年の記録世界から奪った彼女の意識は、2037年の現実に届いたと考えられます。
もちろん、2037年の、ナオミが想定したタイミングよりも後で、瑠璃の意識が戻った可能性もあります。
その方が、自動修復システムが(2037年の記録世界の)病室の瑠璃を狙って来たことを説明しやすいので。
(「現実では意識がないのに、記録内で意識を回復したから」と。)
その場合、奇跡的に意識を回復するか、ナオミの予定通りにはいかずに何かしらのミスで遅れて意識を回復したことになります。
確かに、こちらの方が、現実的な展開なのかもしれません。
でも…
この物語は、ナオミが尋常じゃない努力をして、すべての罪をひとりで背負い、「一行さん」を目覚めさせようとする、強い想いが発端となっています。
(original image: Andrew Neel)
そして、「やってやる(絶対にやり遂げる)」という気持ちと行動力で、不可能と思われることに立ち向かい、現実さえも変えたふたりのストーリーだと思うのです。
彼の行動とは関係のないことで、瑠璃が目覚めたとしたら、
「だったら最初から何もしないで、待っていた方が良かったのでは?」
「苦悩の10年間は無駄になってしまったのか」
という印象になってしまいます。
ナオミの研究を引き継いだ瑠璃がやり遂げることで、「無駄にはならなかった」という考え方もできますが…
観ている側は、周囲の人々を巻き込み、人生に影響を及ぼすような実験をする前に、瑠璃が別の方法で目覚める可能性を、もっと突き詰めるべきだったのでは?と感じるはずです。
また、意識回復の予定時間がずれたとしたら、その場合には何かしら、その原因を示す内容があると思われます。
SFにおいて、重要なポイントなので。
逆に、「瑠璃が目覚めたのは、この時だった」と暗示する内容は十分にあり、他に情報が無いならば、素直に「想定した時間通り」と考えて良さそうです。
(この点については、別の機会に書きたいと思います。)
意識を回復した後の瑠璃
病院で意識を取り戻したけれども、そこにナオミは来ることができなくて…
そして、周りの人たちから、彼が意識不明の状態で入院していることを聞きます。
体が回復した後、不可解な点をはっきりさせたい彼女の希望で、千古教授から「彼がひとりで進めていた研究」について教えてもらうでしょう。
意識不明の状態から、目覚める直前に見た夢かもしれないと思っていたことは、「2027年の記録世界で本当に起こったことだったのだ」と確信します。
そして、自分の意識を取り戻そうと命をかけたナオミを助けたいという気持ちで、研究者になったと考えられます。
実は、高校生の時から「研究者タイプ」の瑠璃なので、アルタラの仕組みを理解することや、新しいソフトの開発などは、ナオミよりも向いていそう…
ありえない展開ではないですね。
もちろん、ナオミは「堅書さんじゃない」のです。
「恋した相手だから」というよりも、「自分を愛してくれた恩を返す気持ち」が動機になったとしても、不思議ではありません。
あとは、「実際に自分の身に起こったことを詳しく知りたい」とも思うでしょうし。
そして、10年間ぐらいかけて準備を整え、2027年の記録世界の直美にコンタクトを取った様子が、あの「お堂」のような場所でのシーンだと思います。
直美を2037年の記録世界に導き、ナオミの意識が失われる直前に、2047年の現実世界に移動させることに成功したのです。
2037年の記録世界で見せたナオミの行動は勇敢で、最後には、心が強くなければ示せない優しさも表れていました。
結局のところ、目覚めたナオミを瑠璃は好きになってもおかしくないのでした。
(original image: Prettysleepy)
実は、2037年の現実世界にナオミが戻れなかった理由と、この時に瑠璃の意識が戻った理由は、同じなのではないか、と考えています。
今後、改めて書きたい点です。
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