今回は、「映画にしかなかった箇所」、「原作の方が詳しい箇所」について、書いていきたいと思います。
(original image: aalmeidah)
原作は、「キノの旅 5巻」の第10話。
映画と同じタイトル「病気の国 -For You-」です。
これまで書いてきたように、コール中尉とのシーン・冒頭・ラストには、映画と原作で大きな違いがあります。
(↓ 地下室・冒頭・ラストについては、こちら。)
また、どちらかにしかない描写というのもあります。
ストーリーをもっと深く知りたい場合や、疑問点の解明には、映画と原作の両方が必要だと感じました。
(2019年8月の記事を更新しています。😌)
映画オリジナルの箇所
演出
映画では、「それまでのキノとエルメスの旅」について、よく知らなくても、十分楽しめるように工夫されていました。
入国前後の数分間で、キノについて、自然と分かるような演出になっているのです。
本当は女の子であること...
国々を巡っていること...
エルメスとの付き合いが長く、お互いに信頼しあっていることなど。
予備知識がなくても、映画中、「キノ」と「普段の生活」ばかりが気にならないような配慮がありました。🙂
旅の目的
入国後2日目に、今回の国を、キノとエルメスが観光する様子が描かれていました。
これも、映画オリジナルの内容です。
「シティの果て」まで行ってみたふたり。
特におもしろかったのが、「かきわり(書割)」という方法が使われていると、キノが気付いて、エルメスに説明するシーン。
舞台の背景のように、シティを囲む壁に絵が描かれているのです。
また、その付近の建物は、遠近法を利用して、街に奥行きがあるように見せる作りになってもいて...
「このような国が実際にあったら、本当にそういう造りをしているかも!」と、わくわくしました。
(original image: Keneeko)
また、シティでは、「消毒液みたいな、ツンとしたにおい」がすると、キノが言う箇所も。
国全体が、病院みたいな感じなのかな、と思わせます。
嗅覚の情報も加わり、臨場感が増しました。
そんな国の中で、「常に監視カメラで見張られていることに、なんとなく違和感を持っている」というキノの様子も、原作には書かれていないことです。
このように、キノの旅の目的である、訪れた国についての「キノによる気付き」は、映画で膨らませてあります。
映画を観ている側も、未知の国を一緒に旅しているような気持ちにさせてくれる演出でした!🤗
原作の方が詳しい箇所
開拓団
映画では、「開拓団の制度自体が、例の実験のため」とも捉えられるような表現でした。
原作を読むと、「シティの外で暮らす方法を模索していくための開拓団」というのが、元々あったことが分かります。
そして、(病気の治療法を見つけるために)集められた人たちは、「特別開拓団」として区別されていることも。
また、この特別開拓団が、「本当に実験に利用されるかどうかは、直前まで確定していなかった」ということも詳しく書かれていて、コール中尉の苦悩がより理解できます。
(original image: aalmeidah)
映画で、カントリーを監視する事務所のスクリーンには、穏やかに暮らしている家族の様子も映し出されていました。
彼らは、ローグたちとは違う、「本当の開拓団だった」可能性が高かったようです。
イナーシャの魅力
映画で印象深かった、イナーシャの「けなげさ」。
原作では、そんなイナーシャのひたむきさが、もっと感じられるようになっています。
キノとの会話が、映画よりも多いのです。
これまで書いてきたように、
コール中尉は、イナーシャのために偽りの手紙を送り続けながら悩み、
キノは、自分の「旅の原則」を破ってまで、彼女の願いをかなえようとしました。
イナーシャが一生懸命で素敵な子だから、彼女を知った人は、応援したくなってしまう...
「イナーシャの魅力が、この物語を動かしている」んです。
そのことが、原作では、会話の内容で表現されています。
(image: ractapopulous)
映画では、彼女の動きやしぐさ、息づかいを、リアルに描写することで、セリフが少ないながらも、イナーシャの魅力が十分伝わってきました。
鳥のブローチ
映画と原作では、作られた鳥の様子が違います!
原作では、短い「金色の毛」がはり付けられていました。
イナーシャの髪の毛ですね。
そして、原作の最後のページには、そのブローチのイラストがあります。
それが、とってもかわいらしいのです!!
(映画では、シンプルな作りになっていましたが。)
この物語では、「鳥」が象徴的に出てきます。
鳥は、「好きな所に自由に行けること」と「そのように旅しているキノ」を表していると思うのですが...
(original image: CDD20)
原作のブローチは、イナーシャが鳥になったかのような姿なのです。
彼女はブローチに、「自分の心をローグの元に届ける」という気持ちを込めた、ということなのかもしれません。
映画で、受け取った手紙を読んだ後、イナーシャが泣いてしまったのは、「この願いがかなったと感じたから」と、解釈することもできます。
(↓ ラストの手紙については、こちらに書きました。)
イナーシャの純真さが伝わってくる、素敵なブローチの挿絵は必見です!🥰
最後に・・・私の好きなシーン
私は特に、イナーシャが「ローグと初めて会った時の様子」を話すシーンに惹かれました。
まるで演じるように話すのです。
ふたりのすべての「会話と動き」を、そのまま再現して...
その思い出を、「自分の頭の中で何回も何回も、繰り返してきたんじゃないかな」と、思わせます。
そして、「何も変えずに覚えていたい」という強い気持ちまで、伝わってくるようです!
ローグとの出会いが、本当にうれしくて、大切な思い出となっていることが、表現されているシーンでした。
結局、イナーシャの夢はかなわなかったけれど、そんな素敵な思い出と夢を持てたこと自体が、かけがえのないことなのです。
(original image: Saydung89)
このことが、「悲しい」だけでは終わらせない、この物語の救いになっているのかもしれません。
ちなみにこの箇所、映画と原作は、ほぼ同じです。😉
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