この映画の終盤で、気になるもう1つの点。
それは、キノとコール中尉の【命がけの対決】についてです。
あの後どうなったのか…?
前回、「コール中尉が生きていると分かる」と書きました。
(その件と、「キノの旅」に関する注意事項は、こちらです。 ↓ )
あのシーンの後、何がどうなって、コール中尉は生きているのでしょうか!
今回も、映画と原作の内容から、つじつまの合う展開を推測していきます。
(2019年8月に書いた記事です。🙂)
(original photo: Hans)
映画では、ふたりが銃を、相手に向けて構えているところで終わっていました。
そして、次のシーンは、「いつもどおりのキノの姿」。
キノの強さをもってすれば、それは当たり前のことなのですが。
コール中尉も生き残り、しかも仕事を続けている、というのは...?
(キノが、絶対に口外しないと約束して、)話し合いで解決したとは考えられません。
銃声が響いていましたから...
映画の中のヒント
最後の会話
映画での、キノとエルメスの最後のやりとりを、手掛かりにしていきたいと思います。
エルメスに、
「次はどんな国がいい?」
と聞かれたキノが、
「住人がもれなく全員、幸せに暮らしている所がいい」
と、こたえています。
「今回の国では、幸せに暮らしていない人がいる」→「それがつらい」からですね。
これは、誰のことを指しているのでしょうか?
もちろん、1番の被害者はローグたちです。
「特別開拓団」の人々は、無残に将来を奪われていますから。
そして、コール中尉も、人を思いやるからこそ、苦しい記憶とともに、秘密を抱え込みながら暮らしているのです。
それは、「病気の人を救うために、一部の人を犠牲にする」という国だから...
この国では、そんな優しい人が幸せに暮らしていないことを知ったキノ。
「対決」では、コール中尉を、できるだけ傷つけない方法を選ぶのではないのかな、と思います。
また、自分があの場所にいた痕跡を残すことで、彼を窮地に陥らせるようなことも、避けようとするのではないでしょうか。
それなので、「キノはコール中尉にケガをさせずに、あの場を後にした」と考えるのが一番自然だと思います。
また、もしもケガを負わせていたら、この後に続く、「食べ物」に関するのびのびとした最後の会話はありえないとも考えられるのです。
(original image: pixabay)
部屋の最後の場面
それでは、どうしたら、ふたりともけがをせずに、キノは逃げ切ることができるのでしょうか?
ふたりが銃を構えた後、部屋全体を映したシーンがありました。
これが暗示になっているのではないかな、と思います。
広い部屋を上から、鳥の目線で見たような表現。
たくさんのスクリーンが、部屋中に垂れ下がっていて、中央には長い螺旋階段が見えました。
キノの動き
この描写は、キノが、「その場所を十分把握していて、利用した」ということではないかと思うんです。
キノの頭の中でも、立体的にあの空間が描かれたことを、示唆していると。
その一瞬で、相手を傷つけることなく、出口にたどり着く方法を判断した、という...
(これまで、様々なピンチを脱してきたキノだからこそできる、冷静な超人的ワザ。)
そして、その脱出方法というは、あくまでも推測なのですが、こんな感じなのかもしれません。
銃声はキノの銃でしょう。
早撃ちの名人(天才)ですから。
訓練を受けた軍人でさえも、かなわないはずです。
コール中尉の上、または斜め前のスクリーンの金具を片方撃つことで、スクリーンを斜めに垂れ下がらせます。
彼が躊躇し、一瞬視界がふさがったスキを狙い、迷路のようなその部屋を、スクリーンで姿を隠しながら進み、螺旋階段で上の階に上がり、エレベーターで地上に脱出…
(スクリーンは、足元までは隠せませんが、走るために立っている状態では、真正面のスクリーンのせいで、近くの足元しか見えなくなります。身長が高いと特に。)
(original image: geralt)
すぐにコール中尉も追いつきそうになるでしょうが、地上に出たら、キノはエルメスにまたがって、急発進…
エルメスがずっと話しかけていた無口な(コール中尉の)乗り物は、すぐに発車しないで、時間をかせいでくれた…
(いつでも一緒のエルメスが、外で待たされていた訳。そしてその間、この乗り物にずっと話しかけていた意味が、何かあるのではないかと?)
そして、エルメスは追っ手から見えなくなるまで、カントリー内を全速力で走り続けた…
ラストシーンまでの間
そして、この後に続く、キノとエルメスの様子を表しているのが、映画冒頭にあった、「夜明け頃の映像」なのかな、と考えています。
キノが焚火に使ったらしい小枝を踏みつけ、エルメスを押して出てきた物置のような小屋。
これは、コール中尉がキノを連れて行った、地下のスクリーン部屋への入り口とそっくりなのです。
木のドアも、建物の造りも大きさも。
(original photo: Kincse_j)
これは、「同じような小屋が、カントリーの敷地内にあちこち設置されている」ということなのではないでしょうか。
そして、スクリーン部屋への入り口は、それらの小屋と似せて作られたエレベーターなのだと思います。
監視している部屋の存在を、カントリーの住人に怪しまれないようにするために。
映画冒頭シーンの背景は、水辺のある森でした。
キノたちがローグを探して走っていた荒野とは、全く違う風景なのですが、カントリーの中には、このような場所もあったようです。
コール中尉から、ローグについて聞いている時、ちょうどキノの斜め右前のスクリーンに、同じような風景が映し出されていましたし。
また、回想シーンで、ローグが、水辺で鳥を見ているところがあり、近くには木が生えていましたから。
エルメスとキノは、小屋の1つで夜を明かし、まだ薄暗い朝に、出発の準備をしていたのだと思います。
この時、鳥が羽ばたく様子を見たキノは、動きを止め、何かを考えている様子。
(original photo: MabelAmber)
考えていたのは、こういうことなのかもしれません。(↓ あくまでも推測。😉)
ローグも、カントリーで、このような鳥を見たのではないか…
そして、イナーシャから託された、鳥のブローチのこと…
映画ではこの後、イナーシャがそのブローチを作っているシーンに続く、という流れになっています。
冒頭シーンとラストシーンの間に、「イナーシャがブローチを作ってから、お礼の手紙を受け取るまでの話」が挟まれている、という構成になっているのではないかな、と考えています。
ちなみに、原作では...
キノとコール中尉の対決シーン、原作ではかなり違います。
場所も、小高い土地にある、コンクリート造りの2階建ての建物だったり...
エルメスは、外で待っている訳ではなく、いつもどおり一緒に建物に入って、会話に加わっています。
そして、銃を使ったという内容もありません。
コール中尉の短刀に対して、キノがナイフで応戦しそうな暗示があるのみです。
監視用のスクリーンについても、一切書かれていません。
詳細は分かりませんが、キノがコール中尉に、けがを負わせることなく、逃げ切ることは、この場合も十分可能でしょう。
相手の不意をついたキノが、さっとエルメスにまたがり、そのままドアを突き破って走り抜けた...とか?
(ドアの修理に関しては…迷惑をかけてしまいますけどね。)
キノにとって、「珍しいこと」
原作では、舞台となった国を去りながら、唐突に、エルメスの意味深発言があります。
エルメスのひとこと
「キノ。珍しいね」
これに対するキノの答えは、
「ん?……ああ。一応は、国の中だからね」
です。
ふたりの会話は、これだけ。
この会話、キノが対決の時にとった行動についてなのかな?と、最初は思いました。
「一応は」というのは、「同じ国の中ではあるけれども、シティの外の荒野だった」という意味でしょうから。
でも、このセリフの意味として、対決方法、つまり「完全に自分の命が危うい状況だったのに、相手にけがを負わせない方法を選んだこと」という解釈は、納得がいかないのです。
キノは、常に相手を傷つけない方法を優先させているので、そのチャンスがあるのならば、そちらを選ぶことは決して珍しいことではないからです。
実際、無傷で逃げ切ることの可能な状況だった訳ですし。
また、国の外と国の中で、キノの「人に対する態度」が違うとも思えません。
(image: ractapopulous)
それでは、エルメスは今回、「何が珍しい」と言っているのでしょうか?
ヒントとなる【時間】
映画と原作の相違点として、「対決シーンの時間が違う」というのがあります。
映画では、ローグの住んでいた家に着いた時には、もう夜でした。
原作では、午後の早い時間に着いていて、秘密を聞いたのも、まだ明るい間であることが書かれています。
そして、上記のエルメスのひとことは、西に向かって、西日を避けて走るキノに対してなので、夕方です。
3日目のその時間にまだ、今回の国の中にいる、そして出口は、まだまだ先。
ローグの住んでいた家のあたりでさえ、国境まで数日かかると言われていたのですから。
つまり、「3日目に、出国できないこと」について、エルメスは珍しいと言ったのではないでしょうか?
キノは、1つの国に、3日間しか滞在しないというルールを決めています。
ふたりの会話は、
「いつものルール通りにできなかったね」
「そうだね、ここは荒野だけど、一応あの国の中だからね」
という意味なのではないかな、と思います。
この後、映画冒頭部分のように、国の中で夜を過ごし(または、原作では夜通し走り続けたのかも?)、映画のラストシーンのキノの様子(翌日の明るい時間に、まだ同じような荒野を走っている)に、つながるのだと思います。
(original photo: cowins)
やりとりから分かること
しかし、1つの国に3日間以上いたことを、キノが気にしている様子はありません。
自分の原則が守れなくても、イナーシャの頼みを引き受けるつもりだったからだと思います。
また、訪れたのがシティだけだったら、この国の半分も見ていなかったことになり、それはキノの本意ではないはずなのです。
映画では、エルメスとキノの、この「珍しいね」というやりとりはありません。
もしも、このセリフが、「キノとコール中尉との対決」についての重要な暗示だとしたら、「省略されていないはず!」とも、考えています。
また、キノの「1国3日間ルール」は、この映画内では触れられていないのです。
そのため、この会話も必要とされなかったのだと解釈できます。
(他にも、映画と原作での違いについて書きました。 ↓)
(↓)原作は、「キノの旅」5巻目(Ⅴ)の10話目です。
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